FinTech news

FinTech、とくに資産運用系のスタートアップサービスを中心に紹介します。

AI(人工知能)による投資についてのFT記事

Financial Times誌に、投資におけるAI(人工知能)テクノロジーの活用についての記事が載っていました。

next.ft.com

AI研究者はテクノロジー企業で争奪戦となっているが、金融(投資)業界でも引っ張りだこのようです。世界最大のヘッジファンドBridgewaterはIBM人工知能Watson部門のヘッドを引き抜き、BlackrockとTwo SigmaGoogleのトップエンジニアを採用したそうです。

「市場は複雑になりすぎて、人間が把握できる範囲を超えている。」とクオンツヘッジファンドは語っています。

スーパーコンピューターとチェスのグランドマスターの勝負ではスーパーコンピューターに軍配が上がっていますが、人間+ラップトップコンピューターの組み合わせはどちらにでも勝てるそうです。これと似た話で、AIをうまく活用した人間(ファンドマネージャー)が最も有利であろう、ということです。

マッキンゼー「フィンテックにより銀行は利用され、迂回され、分解される」

マッキンゼーコンサルタントの方が日経ビジネスにFintechの分析記事を書いています。

business.nikkeibp.co.jp

特に欧米金融機関がFintechによる革新的サービスにどう対応しようとしているかについての部分が特に面白いです。「模倣」「買収」「サプライヤとして利用」「提携」「反撃」「無視」「ビジネスから撤退」という各種オプションの中から是々非々で考えているとのこと。

過去にご紹介した銀行業の未来についてのThe Economistの記事のように、Fintechサービスが顧客との接点となり、既存金融機関はよりインフラとしての存在になっていく方向。APIを提供してインフラ化への動きを推し進める一方、厳選してした分野においてはFintechを模倣したり買収したりして顧客との接点を取りに行く、という立ち回りが求められるのでしょう。

東京にFintech集積地を:兜町、大手町での動き

東京各所で、Fintech企業の集積地を作ろうという動きが出てきています。

まずは兜町東京証券取引所の関連会社である平和不動産が、Fintech企業を集めて活性化しようとしています。

itpro.nikkeibp.co.jp

兜町はもと株屋の街ですがすっかり寂れている感があるので、元気の良いスタートアップを呼び込んで街を活性化させたいという思惑があるのでしょう。

次は大手町/丸の内。三菱地所電通が銀行協会ビルにコワーキングスペースを作るそうです。

www.nikkei.com

既存の金融機関との協業が多くなるFintechスタートアップにとって、大手町・丸の内・日本橋エリアにオフィスを構えることはアドバンテージになります。ロンドンのキャナリーワーフがFintechスタートアップの聖地になっているように、東京でも同様の動きを期待したいと思います。

 

fintech.hatenablog.jp

 

みずほ銀行のロボ・アドバイザーが結構すごい。専業他社は大丈夫?

以前に当ブログでも紹介したみずほ銀行のロボ・アドバイザーサービス。(10月の記事はこちら) 

fintech.hatenablog.jp

サービス開始したようなので試してみましたが、思った以上にイケています。

サービス名はSMARTFOLIO(スマートフォリオ)です。

apl.morningstar.co.jp

「わずか2分程度の無料・簡単診断」で「お客様に応じた投信ポートフォリオをご提案」という宣伝文句に偽りはなく、年齢・投資目的・リスク許容度などの簡単な質問に答えるだけで、2分もかからず投資信託での国際分散ポートフォリオを提案してくれます。

出てくるポートフォリオは、国内債券・海外債券・国内株式・海外株式・国内REIT・海外REITからなるオーソドックスなもの。最もリスク許容度が高いポートフォリオでも新興国株式は入ってこないようです。

中身の投信は、i-mizuhoシリーズというインデックスファンドファミリーで、インデックス運用で世界をリードするブラックロックがみずほ向けに運用する低コスト投信。外国株式ファンドで信託報酬は約0.6%で、海外ETFに比べれば最安とはいきませんが、十分低コストの部類に入ります。販売手数料もゼロです。

ポートフォリオ提案の後は、みずほダイレクトの契約が済んでいる投資家については、同じ画面からボタンクリックだけで投信の購入に進むことができます。

 

投資家にとって低コストで利便性が高く国際分散投資を実現できるサービスということで、歓迎したいと思います。

このサービスが無料で提供されることは、お金のデザイン・Wealthnaviなどロボ・アドバイザー専業スタートアップにとっては、大きな脅威でしょう。アドバイスの中身(提案ポートフォリオ)に大差はありませんし、専業ロボ・アドバイザーが持つアドバンテージは、投資の対象がより低コストな海外ETFであることくらい。ですが、お金のデザイン・Wealthnaviが1%の信託報酬を取るのに対し、みずほ銀行のスマートフォリオのサービスは無料です。これで国内投信と海外ETFのコスト差など吹っ飛んでお釣りがきます。あとは自動リバランスのサービスくらいでしょうが、それもみずほはすぐに提供できるものです。

こうしたサービスのアーリーアダプターであろう若年層にとって、これまでは「銀行で投資する」のはタブーで、ネット証券会社で投資している投資家が多いと思います。銀行には高コストの投信しかないし、販売手数料もたっぷりと取られる。が、i-mizuhoシリーズなど低コスト・販売手数料ゼロのファンドポートフォリオを組め、しかも普段使いのメガバンクの口座で資産運用ができるとなると、わざわざ専業ロボ・アドバイザーのサービスを使う必要はないかもしれません。しかもメガバンクのほうが総コストも安いとなればなおさらです。

ロボ・アドバイザーサービスは価格競争に巻き込まれることは避けられません。前回の米Wealthfrontのサービス解説記事(下)でも紹介したように、米国ロボ・アドバイザーはTax Loss Harvestingなどの付随サービスで付加価値を提供しようとしています。和製ロボ・アドバイザーも、差別化できるサービスを打ち出していけるかに注目したいと思います。

fintech.hatenablog.jp

 

米ロボ・アドバイザーのトップランナー、Wealthfrontのサービスを解説

米国におけるロボ・アドバイザーのトップランナーであるWealthfront。そのサービスを詳しく見ていきたいと思います。

Wealthfrontのウェブサイトはこちら。

Investment Management, Online Financial Advisor | Wealthfront

Wealthfrontは2011年12月の創業、約4年で預かり資産が$3bn弱(30億ドル、1ドル=120円として約3600億円)。ロボ・アドバイザースタートアップの中ではBettermentと並んでトップを走っています。

運用報酬

最初の1万ドル(約120万円)までは無料、それ以上は一律0.25%という極めてシンプルなシステム。また友達紹介キャンペーンがあり、一人紹介するごとに5000ドルが追加で無料になる仕組みもあります。

運用手法

運用チームの顔ぶれを見ると、「ウォール街のランダム・ウォーカー」著者のバートン・マルキールがCIO(Chief Investment Officer)、「敗者のゲーム」著者のチャールズ・エリスがAdvisorとして名を連ねています。実際にどれほど貢献しているのかはわかりませんが、長期インデックス投資界における押しも押されもせぬ巨匠のこの2人を擁しているのは同社の強みと言えるでしょう。

Welthfrontの投資手法はホワイトペーパーとして、ウェブで公開されています。

Wealthfront Investment Methodology White Paper | Wealthfront Whitepapers

口座開設の際に、ユーザーは年齢・収入・リスク選好度などに関する簡単なアンケートに回答します。これによりユーザーのリスク許容度をランク付けします。

ポートフォリオのリスクレベルは1~10に分けられ、各リスクレベルの資産配分比率は下の図のように定めています。リスクレベルが大きくなるほど、新興国株式や米国株式などリスク資産のウェイトが大きくなります。シンプルで透明性が高く、好感が持てる仕組みです。

https://research.wealthfront.com/wp-content/uploads/sites/3/2014/12/im_chart3.jpg

この資産配分比率に従って、低コストのETFポートフォリオを構築します。マーケットの動きや売買行動などで資産配分が変動した場合には自動的にリバランスを実施します。

IRA, 401kなど税制優遇のある口座と一般口座向け、両方にサービスを提供しています。

以上がコアとなるインデックスETFポートフォリオ構築&リバランスのサービスですが、その他にも以下ようなサービスを提供しています。

Tax-Loss Harvesting

一般口座において、含み損が出ているポジションで損失確定の売りを出すことにより、税額を圧縮することができます。米国株式市場では例年12月にはこれに伴う売り注文が多くなる(タックス・ロス・セリング)ことで有名です。

Wealthfrontでは、年末だけでなく年を通して毎日自動的にこれを実施し、より多くの節税効果を享受できるとしています。このための運用手法(どの程度の損失レベルで売るか、短期売買規制に引っかからないように売った後別のETFを買い戻す、など)を開発しています。そして、リターン追加効果が年間1.55%得られるとしています。

Tax-Optimized Direct Investing

前述のTax-Loss Harvestingをさらに進化させたサービス。通常WealthfrontのポートフォリオはインデックスETFで構成されていますが、この米株部分を S&P500の500社の個別株式で保有することにより、個別株の値動きによるTax-Loss Harvestingを享受するというものです。Tax-Loss Harvestingと組み合わせると2.03%のリターン効果が得られるとしています。

Tax-Loss HarvestingとTax-Optimized Direct Investingは10万ドル(約1200万円)以上の預かり資産の顧客は無料で利用できます。

Single-stock Diversification Service

特定の1社の株式に資産が偏っている投資家向けに、その株式を時間分散で少しずつ売ってくれるサービスです。現在このサービスはTwitterFacebookの社員・元社員向けだけに提供しているそうです。ストックオプション長者が数多くいるシリコンバレーの会社ならではのサービスですね。

 

おわりに

ETFによる国際分散投資は、ロボ・アドバイザーのアーリーアダプター層となるであろう若年富裕層であれば、自前でやってもそんなに手間やコストのかかるものではありません。Wealthfrontの0.25%のフィーは十分に安いですが、コアとなるETFポートフォリオ投資サービスだけではなかなかマス層に価値を感じてもらうのは難しいかもしれません。ですがTax-Loss Harvestingなどのより手間のかかる運用を自動化できるとなれば、手数料を支払ってもサービスを受けたいという投資家は多いのではないでしょうか。

また投資手法を公開して透明性を確保していること、徹底的に使いやすいユーザーインターフェースにこだわっている点が、資産残高を順調に伸ばしている背景にあるのではないかと思います。

 

Fintech企業としてのゴールドマン・サックス

投資銀行ゴールドマン・サックスのテクノロジー投資についての英Financial Times(FT) の記事。

https://next.ft.com/content/f436ae7a-9d3b-11e5-8ce1-f6219b685d74

同業他社と比較しても、同社のテクノロジー重視度合いがわかる数字が色々と載っています。

  • 売上高の7-9%をテクノロジーコストに投資(他社は3-4%)
  • ゴールドマンの36,000人の従業員のうち、11,000人がエンジニア
  • 今年マネージング・ディレクターに昇進した社員のうち、6人に1人がエンジニア(2004年には16人に一人)

こうしたテクノロジー投資の成果として、ブロックチェーン技術を利用した電子通貨システムSETLcoinの特許を申請したことと、以前本ブログでも紹介したメッセージングサービスのSymphonyなどが紹介されています。

Fintechによって金融サービスが大きく変わろうとしている中、既存金融機関も止まったままではいられません。スペインのBBVAや英バークレイズなどはFintechアクセラレータープログラムの運営を通して、技術に長けるスタートアップとの関係を深めています。これに対し、豊富なエンジニア人材と潤沢な投資によって自らFintech技術開発をすすめるゴールドマン。金融機関のFintech戦略も一様ではないようです。

銀行APIの「大公開時代」で日本のFintechが一気に進む

Fintechの普及に大きな影響があるであろう、銀行によるAPIの公開についてのIT Proの記事を紹介します。

itpro.nikkeibp.co.jp

記事では、

  • みずほ銀行がLINEに口座残高等の情報提供を開始
  • 住信SBIネット銀行がマネーフォワードと提携し口座情報の連携をすすめる動き
  • NTTデータが銀行向けネットバンキングシステムに外部サービスへのデータ提供機能を提供

が紹介されており、銀行が提供するAPIによってFintechサービスにデータが流れ、これまでになかったサービスが可能になることが期待できます。

当ブログで以前に紹介したThe Economistの記事(下記リンク)でも、銀行によるデータ提供が進むと、ユーザーは銀行が提供するサービスよりも使いやすいFintechのサービスを使用するようになり、銀行はインフラを提供する存在に成り下がるだろう、という未来が予言されていました。

fintech.hatenablog.jp

銀行など既存金融機関にとって外部Fintechサービスにデータを提供することは顧客との接点を失うことになるマイナス面も考えられ、スムーズに進むかどうかはわかりません。逆に日本の金融機関がデータ提供において欧米の金融機関よりも先行すれば、日本がFintechにおいて欧米に一気にキャッチアップする可能性もあるのではないかと思います。